FX資料請求、その展望を探る

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イギリスの投資家にとって、日本市場はかつてほどの重要性がなくなっていたから、大きな売買もなかった。 首が危うくなりかけたことはあったが、とにかく4年間は持ちこたえた。
4年経った94年の秋、晴れて永住ビザを手に入れた時の嬉しさは、たとえようもなかった。 この気持ちは経験者以外には分からないと思う。
来英5年目の95年、私が失業したのは、永住ビザ取得の九ヶ月後のことであった。 ところで、日系の銀行に仕事を得た私だったが、その5年後には、また外資に転職した。
日系銀行の現地法人は職場環境も人間関係も良好だった。 そこでの5年間、クレジットアナリストとして私は、多くの経験を積むことが出来た。
だが、バブル崩壊後、日本の金融機関を取り巻く状況はきびしく、合理化の一環として海外拠点の閉鎖がとりざたされるようになった。 本社のそうした動きはロンドン法人にも伝わって来た。
私たちは、閉鎖の対象にならないよう精一杯努力して利益をあげたが、会社全体から見れば微々たる数字に過ぎなかった。 残念ながら徐々に、閉鎖をまぬがれることが出来ない情勢になって来た。

そんな折り、私を雇ってくれた副社長がイギリスの銀行に移ると言う。 私よりひとつ年長の彼は、これまでの仕事の総決算として、国際金融の最前線で、多くのスタッフを縦横に駆使して、培った経験と能力を思い切り発揮出来る機会をうかがっていたのだ。
彼は「一緒にやらないか」と、私を強く誘ってくれた。 まことに有り難いことだった。
私とて現役を退くには早すぎる。 何よりもアナリストとして、国際金融市場の最前線に身を置いていたかった。
2000年9月、50歳の誕生日を間近にした私は、再びロンドンの外資系銀行に転職したのであった。 私たちは子供の頃から、組織の中の一員という意識を教え込まれて来た。
組織の成員としての連帯感と忠誠心、それに基づく統一的な行動こそが社会でもっとも適正なものであり、組織の中で他人と違う考え方や行動は慎むべきだと、ことあるごとに教えられて来た。 ここで急に思い出したのだが、私が大学を出てある商社に入った時、受けた研修に「会社の組織研究」というテーマがあった。
私はI君という同期の社員とペアを組み、社内のある職場を「労働組合と経営側との問題」という観点から調べ、報告したのだが、人事課の担当者から「発想が偏向している」とこっぴどく叱られた。 反発したら返って来た言葉は、「ほかのどの社員もそのような発想をしていないじゃないか。
君らだけが人と違う発想をしたこと自体が異常だ」その時の私とI君の調査は、なかなかユニークでするどいものだったと、今でもひそかに自負している。 だが、その会社は「同質な発想や行動」を金科玉条のように大切にし、社員に強いる組織だった。
日本という社会の縮図でもあった。 その底流には、「私たちは同質でなければならない」という暗黙の要請があった。

同じ価値観、同じ噌好、同じ服装、同じ発想、同じ行卦却、それらを共有し、それらに殉じることは、世間一般の規範を超えて許される美しいことなのだ、という誤った考えがあった。 あの夜、カラオケバーで、傍若無人に唄い、騒いでいた某大企業の駐在員の面々も、この種の「組織病」、あるいは「集団病」に冒されていたのかも知れない。
こうした日本人特有の性癖から脱却しない限り、日本人は自由になれないし、国際的にもなれないし、国際的な企業競争にも勝てない。 イギリス人の間には、「日本人は1人の時はおとなしいが、集団になるとパワーを発揮する。
イギリス人には真似が出来ない。 組織力こそ日本人の最大の武器だ」との意見もある。
彼らのステレオタイプの日本人像でもある。 今は、戦後の復興期のように、均一な製品を大量生産しておれば経済的に何とかなった時代ではない。
そろそろ日本人の1人1人が、集団を自由に離れ、それぞれの個人の力を見せてやるべき時が来ている。 集団主義からも集団心理からも抜け出し、企業の名の後ろに隠れず、むしろ、1人で名乗りをあげる若者たちがどんどんあらわれて欲しい。
最近、昼休みにシティを歩いていると、旧知の日本人、N氏とよく行きあう。 彼はすでにイギリス暮らし20年。
欧州全般の不動産売買に長く携わってきた人だ。 浅黒く精惇な2枚目ながら、笑うと何とも言えぬ人なつっこさが表情に出る。
私と違って、ご婦人にもてるタイプだ。 不動産といっても、N氏の仕事は個人相手の周旋ではない。
時価数十億円もする事業用の大規模ビルを売買するのである。 高層のオフィスビルもあれば、居住用の高級フラット(日本でいえばマンション)に使うビルもある。

N氏は、イギリスの大手不動産会社に勤務しており、土地開発、ビルの建築企画、さらにはその販売まで幅広く携わっている。 ここのところ昼休みの時間にあまりによく顔を見るので、不思議に思って聞いてみた。
「Nさんの会社はこの近くでしたか?」「ええ、すぐそこのキングストリートですよ」「それにしても昼休みのたびによくお会いしますね」「毎日、私は昼飯を食べに、ここを通って自宅に帰るので」「ええ?お宅で昼飯を食べるのですか?どこに住んでおられるのでしたつけ?」「以前は、ロンドンの北に住んでいたのですが、3年前にこのあたりに越してきたのです」「今日も奥さんが料理を作って待っておられるのですね」「そうです。 まあ、昼ですから、簡単なものしか作りませんが。
それでは失礼」と手をあげて、N氏はそそくさと自宅に向かつて帰って行った。 あまり奥さんを待たせてはいけないと思ったのだろう。
彼は不動産売買が専門だから、シティのどこにどのような物件があるか全ての情報をつかんでいる。 3年前、会社の近くに新しい椅麗なフラットが出来たので、いちはやく購入を決めた。
通勤時間は5分。 それも徒歩だから通勤費用はかからない。
イギリスでは通勤費用は会社負担でなく、自己負担だ。 ない分だけでも、大変な節約になる。

それに、シティの真ん中だから、どこに行くにも交通の便はいい。 何よりも、日本の80年代に似た不動産バブル気味のイギリスにあって、そうした好条件の環境にあるフラットは投資の対象としても最適だ。
私は、N氏が数年前に言っていたことを思い出した。 「Wさん、ロンドンの不動産の価格はこれからまだ上がりますよ。
今のうちにひとつフラットでもお買いなさい」。 N氏は振り返って、背後に建っているこぎれいなクリーム色のビルを指差した。
そこなら、私も知っていた。 3年前に建設され、結構な値段で売り出きれた高級フラットだった。
「ほら、あそこです。 あのフラットですよ。
会社まで歩いて5分です。 だから、昼飯は家に帰って食べます」。
「私はすでに郊外に家を持っていますから」「あなたの居住用の家でしょう。 それとは別に投資のために買うのですよ。
この国は日本と違って、住宅が足らないからといって、やたらに山を切り崩したり、緑地をつぶしたりはしない。 そこがイギリスのいいところなのですが、おかげでロンドンは需給のアンバランスがなかなか解消されません。
不動産の価格はまだ上がります。 今、買っておいて5年も待てば、大変な利益が得られます」。

「なるほど」と私は納得した。 ロンドンの北に住んでいた彼は、自分の見通しに基づいて、シティの中心部のあのフラットを買ったのだ。

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